東京高等裁判所 昭和58年(う)1219号 判決
当裁判所は職権により記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討して,次のとおり判断する。
森林法上にいう「森林」の意義につき,同法2条1項に,主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹を除き,「木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹」をいうと規定されているところ,これを本件土地についてみると,当審で取り調べた本件土地の登録簿謄本二通には本件土地の地目は「山林」とされており,また,千葉県知事の検察官に対する昭和59年1月20日付捜査関係事項照会回答書,検察官作成の同年1月25日付電話聴取書によれば,本件犯行前である昭和54年5月29日に千葉県が撮影した本件土地を含む姥山地区及びその周辺地域の空中写真に基づき本件土地の樹冠疎密度(林地面積に対する樹冠投影面積の占める比率)を計算すると,右撮影当時の密度は95パーセントであったことが認められ,また,当裁判所が取り調べた土屋宗之の昭和58年12月8日付供述書,司法警察員作成の同年11月18日付写真撮影捜査報告書,柳橋千鶴子の検察官に対する同年11月22日付供述調書によれば本件当時における本件土地は高さ4.5メートル位の楢や櫟の木が自生しており林状になっていたことが認められ,これらを総合すると本件土地は森林法2条1項1号所定の森林であったと認めることができる。
しかして,被告人は前述したごとく,本件土地から昭和55年2月28日ころから同年6月19日ころまでの間合計約35,453立方メートルの山砂を採取したものであるところ,右山砂が森林法197条所定の「森林の産物」に該当するか否かについて検討してみると,森林法は森林の産物についてこれを定義する規定を定めていないが,森林法が森林における産物の窃取を普通窃盗と区別し特別に規定を制定した理由,森林に関する法制の沿革,森林に関する法令中産物に関連をもつと認められる諸規定に鑑みると,「産物」とは森林より産出する一切の物をいい,有機的産出物はもち論無機的産出物をも含むものと解するのが相当であり,森林の無機的産出物である土石,砂利,山砂も森林の産物というべきであり(東京高裁昭和46年10月26日判決―高裁刑事判例集24巻4号641頁,最高裁昭和50年3月20日第一小法廷決定―最高裁刑事判例集29巻3号53頁参照),従って,被告人が本件土地から採取した前記山砂も同法197条所定の「森林の産物」であるといわざるを得ない。
以上によれば,被告人の本件所為は森林法197条の森林窃盗にあたるというべきところ,これを普通窃盗と認定し,これに刑法235条を適用した原判決は,本件につき十分なる審理を尽さず,事実を誤認し,その結果法令の適用を誤ったものであるといわざるを得ず,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,原判決は全部破棄を免れない。
そこで,刑訴法382条,380条,397条により原判決を破棄し,当裁判所は,起訴状記載の公訴事実第二に関し,当審における検察官の請求により予備的に追加された森林窃盗の訴因を含む被告事件につき,刑訴法400条但書に則り更に判決する。
(法令の適用)
被告人の判示行為中千葉県知事の認可を受けないでした山砂採取の所為は千葉県土採取条例22条1項1号,3条1項に,森林窃盗の点は森林法197条にそれぞれ該当するところ,右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により一罪として重い森林窃盗の罪の刑で処断することとし,所定刑中懲役刑を選択し,所定刑期の範囲内で被告人を懲役10月に処し(以下省略)